和歌

ものは尽くし

和歌にすぐれてめでたきは 人麻呂 赤人 小野小町 躬恒 貫之 壬生忠岑 遍昭 道命 和泉式部


「梁塵秘抄」


古歌奉りし時の目録のその長歌    貫之

千早振る 神の御代より 呉竹の 世々にも絶えず
天彦の 音羽の山の 春霞 思ひ乱れて
五月雨の 空も轟ろに 小夜更けて 山ほとゝぎす
鳴く毎に 誰も寝覚めて 唐錦 立田の山の
紅葉葉を 見てのみ忍ぶ 神無月 時雨しぐれて
冬の夜の 庭も斑に 降る雪の 猶消え返り
年毎に 時につけつゝ あはれてふ ことを言ひつゝ
君をのみ 千代にと祝ふ 世の人の 思ひするがの
富士の嶺の 燃ゆる思ひも 飽かずして 別るゝ涙
藤衣 織れる心も 八千草の 言の葉毎に
天皇の 仰せ畏み 巻々の 中に尽すと
伊勢の海の 浦の潮貝 拾ひ集め 採れりとすれど
玉の緒の 短かき心 思ひ敢へず 猶あらたまの
年を経て 大官にのみ 久方の 昼夜分かず
仕ふとて 省みもせぬ 我が宿の 忍草生ふる
板間荒み 降る春雨の 漏りやしぬらん

「古今和歌集」 #1002



平安歌謡の特色の一つは「ものは尽くし」。
これもそうで、歌人で秀でたものは誰と誰と
列挙してゆく。人麻呂・赤人は『万葉集』、小
町・躬恒・貫之・忠岑・遍昭は『古今集』、道
命・和泉は『後拾遺集』以後と、当時の有名
歌人を列挙する。この形式は何よりもまず暗
諳するのに便利だった。この中では道命阿闍
梨(あじゃり)が現代では耳慣れない名だが、
和泉との恋愛説話などで知られる出家歌人。

「折々のうた」大岡 信
H3.6.15

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